この度の西日本豪雨では、既に150名以上の死者がでています。
お気の毒ですが、現在行方不明の方を考えると、犠牲者は200名を越えると
思われます。
かつてこれほど広範囲に、これだけ多くの犠牲者を出す水害はあったでしょうか?
これだけ多くの犠牲者を出してしまった一因は、被災者の避難に対する認識の甘さ
があったことは否めません。
「ここは大丈夫」「自分は大丈夫」、しかし一方で、非難したくても自力でできなかった
1人暮らしの高齢者の方が多く犠牲になった事実も認識しなければなりません。
しかし、ご近所の方が一刻も早い避難を意識し、逃げる行動をするときに声をかけたり
様子を見に行ってくれていれば、助かった命はもっとあった筈です。
そんな意味でも、早い避難は自分のためだけではないという事が改めて分りました。
被災者の避難が後手に回っているという事実があり、また国や自治体の対応も後手に
回っています。
皆さん、水害を防ぐための排水機場の設置には、2つの事業があることをご存知
でしょうか?
ポンプの口径や工事の総額等、細かい取り決めは省きますが、概ね以下のとおりです。
湛水防除事業
氾濫した河川水などを、24時間以内に排水するためのポンプ場を設置する事業
水田などは短時間であれば浸水しても影響が小さいため、周辺の水田等を遊水地
として利用して大きな水害を防ぐが、その水は24時間以内に引かせる事を目的
にしている。
排水対策特別事業
浸水させてはいけない地域を守るためのポンプ場を建設する事業
河川の周辺に畑地や集落が存在するため、浸水が許されない。
湛水防除事業に比べて、ポンプの排水能力は大きくなる傾向にある。
この2つの事業には、主に「横軸軸流ポンプ」や「横軸斜流ポンプ」という
型式のポンプが用いられてきました。
写真は横軸斜流ポンプです。
膨らんだ部分に羽根車が入っていますが、お分かりのとおり、羽根車が常に
水没していないので、排水運転を開始する時には真空ポンプで水を吸い上げ、
この膨らんだ部分から「原」の文字が書かれている90°エルボ、その下の
揚水管を満水にする作業が必要になります。
通常はこの満水までの時間は5分以内になるように真空ポンプの能力を決めます。
膨らみの頂点から出ている白い配管が真空ポンプに繋がる抽気用の配管です。
しかし、豪雨災害での被災者の皆さんの声を聞くと、「あっという間に水が来た」
という声が圧倒的に多く、また河川の氾濫ではなく堤防の決壊のときはそれ以上の
速さで水が来ます。
その5分以内が待っていられない状況になりつつあります。
最近は農用地を宅地転換され、昔田畑だったところに家が建ち始めました。
そうすると、過去に湛水防除事業で作られたポンプ場では当然間に合いません。
場合によっては水位が上がり始める前から待機運転させたり、少量ずつを排水
しながら被害の発生を防止する必要があります。
排水対策特別事業ではなく、都市排水の考え方です。
その時に必要なのは「横軸」ではなく「立軸」のポンプです。
立軸ポンプは、羽根車が常に水没しているため、真空ポンプが不要であり、さらに
メーカー各社の独自の技術によって、水が無い状態でも運転しながら待機すること
ができます。
では、なぜ横軸ポンプから立軸ポンプへの更新が進まないのか?
理由はいくつかあります。
・立軸ポンプは横軸ポンプに比べて高額になる。
・ポンプ場の建屋が横軸用にできている(高さが足りない)
など色々ありますが、納得できないのは役所の縦割り行政の弊害を受けているという
事です。
先に書いた、田畑を守るためのポンプ場であれば農林水産省ですが、住宅を守る
ためのポンプ場であれば、国土交通省ということになります。
それは自治体でも同じであり、農林関係と住宅関係を担当する部署が異なります。
極端に言えば、昔農地だった所を災害から守るためのポンプ場は、宅地になったので
能力を強化するのではなく、農林関係の部署では「要らなくなった」という扱いに
なります。
うーん・・・これってどう考えてもおかしいですよね?